Maya のすべてのオブジェクトには、オブジェクト空間と呼ばれる独自のローカル座標系があります。たとえば、1000 個の椅子のインスタンスを含むシーンがあり、すべての椅子が同じシェイプであるとわかっているとします。椅子の上部の頂点は各椅子の同じ位置にあります。1 つの椅子のホイール上の頂点が、別の椅子のホイール上の頂点と同じ位置にあります。
オブジェクト空間でこれらの椅子のシェイプを比較することは、それを認識しているかどうかに関係なく、それぞれの椅子の存在する場所が異なることを無視していることになります。つまり、各椅子のワールド空間上の位置を無視しているのです。ワールド空間はシーン全体におけるオブジェクトや頂点の絶対位置です。ワールド空間では、シーンのあらゆる位置で椅子を移動した事実も考慮されるため、各椅子の上部の頂点は同じ位置にはありません。しかし、オブジェクト空間では、オブジェクト全体の移動は無視されるため、各椅子の上部の頂点は同じ位置にあります。
したがって、マップの転写(あるいはアトリビュートの転送、スキン ウェイトのコピーなど)では、シェイプが同じで、相互に重なり合っていない 2 つの椅子の間でデータを転送する場合、オブジェクト空間を使用してデータを転送することになります。一方、実際に相互に重なり合った 2 つのオブジェクトの場合は、ワールド空間を使用します。この場合に、オブジェクト空間を使用できるでしょうか?使用できる場合もあります。ただし、オブジェクト空間ではオブジェクトの移動、さらには回転とスケーリングも無視されます。したがって、大きなオブジェクトから小さなオブジェクトにデータを転送する場合、小さい方のオブジェクトをスケールして大きくし、少しオフセットして回転させて向きを揃えてから、ワールド空間でデータを転送します。すなわち、これらのオブジェクトをアラインするためのすべての調整を行い、シーン ビューで整列しているとおり正確に転送する必要があることを Maya に通知するのです。
オブジェクト空間は、オブジェクトのローカル 3D 空間です。常時、上は上、左は左になります。これは現実世界と同じであるため、オブジェクト空間は非常に理解しやすい均一な空間です。一方、接線空間は多くの場合、サーフェス空間と考えられます。接線空間では、上は常時サーフェスから離れる方向となります(すなわち、法線に沿った方向)。左、右、前、後は、サーフェスに沿ってスライドします。たとえば、金属製のティーポットの表面にくっついた小さな磁石に手にかけているとします。この磁石をポットの表面上をあちこちにスライドすると、接線空間に追従することになります。ティーポットの底で磁石をスライドすると実際に上下の向きが反対になり、側面をスライドすると横向きになります。
法線マップを使用して高度な処理を開始すると、違いがはっきりします。接線空間はオブジェクトのサーフェスであることを思い出してください。したがって、サーフェスを基準としたパターンとしてレンガのパターンを表現する場合、レンガのパターンを取得して任意の場所に適用することができ、レンガの外観は維持されます。レンガのパターンがティーポットの底面にある場合、レンガは下向きに突出します(磁石の例を参照)。レンガが側面にある場合、横向きに突出します。したがって、接線空間の法線マップをミラーすることができます。つまり、キャラクタの半分に対して法線マップを作成して、それをモデルの両サイドに接着するだけで済みます。ただし、オブジェクト空間(常時、上は上)では、このようにはいきません。オブジェクト空間の法線マップでは、キャラクタの耳が左に突出していると、キャラクタの両耳が左に突出したようにシェーディングされます。同じことがレンガのパターンにも当てはまります(下部のレンガがオブジェクトに突出するだけでなく、上下反対にシェーディングされるため、上から下にライトを照らすと、オブジェクトの下部が照らされます)。
接線空間の法線マップの非常によく使用される例として、他にはキャラクタの変形があります。接線空間の法線マップによって、サーフェスを基準としたキャラクタの詳細が定義されるため、キャラクタの伸長、移動、および変形が可能です。キャラクタの腕の法線マップの縞目はキャラクタに応じて変形します。たとえば、キャラクタの腕が上下反対になると、縞目も上下反対に表示されます。オブジェクト空間の法線マップでは、これと同じ効果を得ることはできません。
法線マップ自体を見ると、これを確認できます。オブジェクト空間の法線マップは、さまざまな方向を示すベクトルを含むため、非常に色彩に富んでいます。一方、接線空間の法線マップはアップ ベクトルが変化するだけであり、全体のマップ シェードは青と紫です。