ニュートラルバランスと色順応
NEUTRAL BALANCING & CHROMATIC ADAPTATION
今号のThe Color Magazineでは、ニュートラルバランス(あるいはホワイトバランス、グレーバランス)について考察し、色順応について説明する。
イメージのグレースケールのバランスを取ること、つまり、あるシーンでどのオブジェクトをニュートラルとして再現するか決定することは、カラーグレーディングの主要な役割の1つである。これは、Autodesk® Lustre®ソフトウェアでは、ビデオ信号で作業する場合のマスターゲインコントロール、ログシグナル(つまりフィルムスキャン)作業をする場合のプリンターライト(Brightness / 輝度 としても知られている)に相当する。どちらの場合でも、ニュートラルバランスはレッド、グリーン、ブルーのチャンネルにそれぞれ独立して適用される3つのスケールファクタのセットとして考えることができる。現実のグレーディングでは、カラーリストはハイライト、ミッドトーン、シャドーのニュートラルバランスをそれぞれ別々に調整することが多い。しかし、この記事ではグローバルな(全体的な)バランス調整を考えてみよう。
基本的なコンセプトとしては、シーン内におけるグレーのオブジェクトでのレッド、グリーン、ブルーのピクセル値が等しくない画像を取り上げて、再現されたオブジェクトがニュートラルに見え、ピクセル値がほぼ等しくなるまで、レッド、グリーン、ブルーのゲインをインタラクティブに調整していく。このようなシンプルなケースでは、1つのニュートラル(例えばミッドグレーかホワイト)を固定すると、トーンスケール全体がニュートラルになるという副次的な影響がある。
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これは非常にシンプルなコンセプトだが、どのようなカラースペースでバランス調整を行うかを考えると面白い。以前の号で、異なったレッド・グリーン・ブルー(RGB)プライマリーのセット、たとえばITU-R BT.709やDCI (Digital Cinema Initiative)を使うと画像がどのように表現されるかを見た。どのようなプライマリーのセットを使っても、レッド、グリーン、ブルーのチャンネルのシンプルなスケーリングは、ニュートラルアクシスのバランスを取る有効な手段である。しかし、このバランスの結果、画像内の他の色(つまりニュートラルでない色)がどう動くかは、プライマリーの選択に大きく依存する。図1は、この例を色度図で示したものである。 |
| 図1 画像を拡大する |
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少し横道にそれるが、カラープライマリーを視覚化するためによく使われるCIE xy色度図を、以前のThe Color Magazineで紹介している。この色度図は最もよく見かけるものだが、CIE(国際照明委員会)はu-プライムとv-プライムと呼ばれるxyよりいくらか新しい色度図を推奨しているので、 図1ではこれを使った。u'とv'を計算する方程式はxyの場合と基本的に同じだが、係数だけが異なっている(目標とする知覚的均一性がやや高い)。ここでは詳細は重要でないが、いくらかスケーリングの異なる2つの色度図が一般に使われていることを知っておいてほしいので、ここで両方を説明する。
図1は、異なる2組のRGBプライマリーで同一のグレーバランスを行った、よく使われるカラーチャートの24パッチを示している。黒色の馬蹄形(もうお馴染みであってほしい)がスペクトル軌跡である。2組のプライマリーのガマット(再現領域)トライアングルも示されているが、その1つはスペクトル軌跡の外に大きくはみ出しているので、両端の角は表示できない。グレーはどちらでも同じ動きをしているが、他の色への影響は大きく異なっている。
ここで、ニュートラルバランス調整にはどのプライマリーが最適なのかという問題があるが、その答えはバランス作業の目的によって異なり、答えは1つだけではない。典型的な2つの目的を以下に挙げる。
- 撮影現場で実際にシーンを目にした人が見たのと同じに見えるように画像をバランス調整
- シーンが実際とは異なった光源で撮影されたと見えるように画像をバランス調整(たとえば、1日かけてシーンが撮影されたために照明が変化して、後の方で撮影したショットを先に撮影されたショットに合わせる必要がある場合など)
また、セットで使用された光源(タングステン光等)の色度が画像再生に用いられるホワイトポイント(ビデオ用D65等)と異なる可能性を念頭におくことも大切である。それゆえ、アピアランス(見え方)を維持するために、目がどのようにこの違いに反応するかを考慮しなければならないが、これは色順応の問題である。では色順応について見て行こう。
視覚の長所の一つは、照明の色が大きく変化しても対象を認識しやすいように、視環境に順応することである。たとえば、紙はタングステン照明でも昼光でも白く見えるが、これを写真にすると(それぞれ別にバランス調整を行わない場合)、非常に青く、あるいは非常に黄色く見える。
しかしホワイトポイントが大きく変化すると、このいわゆる色順応のプロセスだけでは十分でない。スペクトル的にニュートラルなオブジェクトは、完全にではなくともほぼ無彩色に見えるが、色のあるオブジェクト間の関係は同程度には維持されない。この現象を理解してモデル化することは、カラーサイエンスにおける長年の課題である。既に1902年、レッド、グリーン、ブルーを感受する眼の受容体(錐体と呼ばれる)に働く独立したゲインのセットによって色順応をモデル化できるとする理論を、ヨハネス・フォン・クリースが発表している。これは要するに、今日基本的な色補正で行われているのと同じやり方で、眼がホワイトバランス調整を行っているという理論である。
フォン・クリースのシンプルな考え方は非常に有効であることがわかり、今日に至るまでカラーサイエンスで最もよく用いられる色順応モデルとなっている。ここで、独立したRGBゲインを使う前に、色を眼のRGBスペース(錐体空間としても知られている)へとどのように変換するかが、重要なステップとなる。たとえば、単にゲインをCIE XYZスペース(錐体空間ではない)に適用するだけでは、 非常に不満足な結果しか得られない。そこでカラーサイエンティストは、理想的なプライマリーの組み合わせを見つけようと長く努力を続けてきた。以前の記事で検討したカラースペースの場合と同様に、錐体空間もこの空間からCIE XYZ三刺激値に変換する3x3マトリクスとして、また色度図上の1組のRGBプライマリーとして定義することができる。
図1の2つのガマットトライアングルは、Hunt-Pointer-Estevez錐体プライマリー(大きな赤いトライアングル)と、これより新しい1990年に開発されたブラッドフォード プライマリー(緑のトライアングル)だが、これは現在色順応に最もよく用いられているプライマリーのセットであろう。(2004年にCIEはCAT02という他のセットを推奨したが、これはブラッドフォードセットによく似たものである。)そのため図1の色差は、提案された2つの異なる錐体空間でバランシングを行ったときに見られる差である。
ここまでに学んだことを要約すると、カラーサイエンティストが色順応と呼ぶものは、実はカラーリストがホワイトバランスと考えているものと非常によく似ている。さらに、バランス作業を行うカラースペースとして何を選ぶかはニュートラルカラーにまったく影響しないが、他の色には大きな影響を及ぼす場合がある。ここで、RGBスペースでシンプルなゲイン調整を行ったときに色がどのようになるかを詳しく見てみよう。
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図2は、多数の色のセットでレッドチャンネルだけにゲインを適用したものである。 黒い点は開始位置を、線は色がどのように移動したかを示している。色度図でレッドゲインを適用すると、全部の色がレッドプライマリーに向かって直線的に動くことを確認してほしい。他の2つのチャンネルを同じファクタで縮小しても、これと同一の動きがみられる。 |
| 図2 画像を拡大する |
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図3は、各チャンネルに異なったゲインを適用した一般的な例である。それぞれの色が、ゲインの最も小さいプライマリー(ここではブルー)から始まって、ゲインが次に小さいプライマリー(グリーン)に向かって曲がり、ゲインが最も大きいプライマリー(レッド)で終わる円孤に沿って動くパターンが認められる。
よくあることだが、単純なニュートラルバランスも最初に思ったより実際は複雑であり、どのカラースペースを使うかが重要になる。カラーグレーディング工程の髄所で行われているこの作業の影響によって色がどのように動くのかについて、この号でいくらか知っていただければ幸いである。 |
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