デジタルカメラはカラーガマットを持っているのか
DO DIGITAL CAMERAS HAVE A COLOR GAMUT?
前号のカラーマガジンでは、ディスプレイ装置におけるカラーガマット (色再現領域) について学んだ。今回は、デジタルカメラのガマットについて見てみよう。しかしこれについてより良く理解するために、ちょっと遠回りのようだが、まずは等色関数(Color Matching Functions) について説明したい。
カラーサイエンスにおいて一番基本的な法則は、人間は三色視だということである。これは、いかなる (任意の分光組成の) 色刺激も、たった3つのプライマリーカラー (原色) を加法混色すればマッチすることを意味する。基本的な実験は以下のようになる:観察者の視界を2つに分割する。1つはテストカラーで、その隣に、赤、緑、青の3つの光の組み合わせによるカラーがある。観察者は、赤、緑、青の相対量を、テストカラーにマッチするまで調整する。赤、緑、青の値はテストカラーを表す三刺激値と呼ばれる。いかなるプライマリーの組み合わせでも、この実験を遂行できることから、三刺激値はプライマリーの機能と言えることを覚えておこう。
実際、いかなるプライマリーの組み合わせでも、そのガマットの外にある色を見つけることができることから、1つか2つのプライマリーをテストカラーに加える方法に、実験を変更できる(すなわち、基本的にテストカラーの彩度を減じる)。これが行われる場合、テストカラーに加えられるプライマリーの値には、負が与えられる。この方法で、2つの負の三刺激値と同じくらい多量でも、全ての色は適合する。
理論的には、全ての可視光 (すなわちスペクトル軌跡) のそれぞれの波長を使って実験が行えるはずである。そして、波調の機能としての三刺激値の結果をグラフ化できる。結果が描くカーブは、等色関数 (CMFs) と呼ばれる。三刺激値とともに、等色関数は使用されているプライマリーにより変化する。
等色関数の形は、刺激の角度の大きさや観察者の年齢によっても違うし、個人差もある。
しかしながら、平均的な等色関数はカラーマッチの予測に非常に役立つ。1931年、CIE(国際照明委員会) は等色関数のスタンダード (標準) を作成し、これらは色を特定するのに、すなわちスペクトルの刺激を三刺激値か色度座標に減少させるのに、最も一般的に使用される等色関数となった。
図1は、CIEスタンダード 1931 XYZ 等色関数と、ITU-R BT.709 (rec. 709) のプライマリーを採用した場合の対応する等色関数を表している。前者のカーブは、XYZ値をrec. 709 RGBに変換するマトリックスを単純に使用し、変換させた。
前号の「カラーマガジン」で述べたように、2つの色の加法混色は、これらの色に繋がる色度図の線上にある。これに関連して、正の三刺激値によって示される色にとって、その色は対応するプライマリーの色度三角形の内側になければならない。従って、実際のプライマリーの組み合わせによる等色関数は負の値も存在すると推測できる (等色関数はスペクトル軌跡の三刺激値であるから)。さらに、1931CIE XYZ等色関数は全て正の値であるから、それらの対応するプライマリーはスペトル軌跡の外側に位置するはずである。これらのプライマリーは物理的に確認することができないので、「イマジナリー (想像上の)」プライマリーと呼ばれている。
図2ではrec.709 (緑の三角形) をCIE 1931 XYZ (赤の三角形) と比較した。スペクトル軌跡はナノメートル単位で表された波長で注釈を付けた。これらの波長を図1の水平軸に合わせると、プライマリーの総計が負でなければならないエリアではrec. 709等色関数が負の値となることがわかる。例えば、460ナノメートルから550ナノメートルまでのエリアは、レッド = 0ライン (つまりグリーンとブループライマリーを結ぶ線) の逆側であり、図1における赤の等色関数の負の部分と一致する。
カラーマッチングの実験結果からもう1つ言えることは、2つの任意の分光分布 (スペクトラム分布) が人間のビューにマッチするためには、三刺激値が同じでなくてはならないということである。もしもデジタルカメラのスペクトル感度が等色関数であったら、センサーによって集積されたRGB値は三刺激値で、人間に適合するスペクトル刺激は、デジタルカメラにも適合するであろう。残念ながら、これはデジタルカメラ(あるいはフィルムカメラ)のスペクトル反応を設計し、正確な等色関数を備えるためには実用的ではなく、従ってこれらの色再現も決してパーフェクトにはならない。しかしながら、カメラのスペクトル感度を等色関数だと考えれば、役立つであろう。色度図上でこれらに対応するプライマリーはどこかが分かるからである。
この線で考えていくと、実際のカメラのスペクトル感度は常にゼロ以上 (すなわち光に対して負の反応を持つことはできない) であるから、対応するプライマリーはスペクトル軌跡の外側になければならないと(CIE 1931 XYZ等色関数と同様に) 見ることができる。もう一つの見方としては、カメラの反応を純粋なスペクトルカラーとホワイトの混合と考えることである。混合においてホワイトの量を減らすと、センサーによって記録されるRGB値も下降するが、R、G、Bはそれぞれ、スペクトル軌跡が到達するまでずっと正の値のままである。従ってスペクトル軌跡の内側全体は正のRGB値であり、スペクトル軌跡を境界線として継続的なグラデーションを見ることができる。
こうしてみると、デジタルカメラは本質的にガマット制限 (一意的に反応できるカラーレンジにおける制限) を持っていない。しかしながら、ここには物事をややこしくする2つの要因がある。1つは、カメラが制限のあるダイナミックレンジを持っているということである。従ってたとえカメラが正確な等色関数スペクトル反応を持っていたとしても、シーンにおける色はチャネルにクリップを起こすかも知れないし、ノイズフロアより下に落ちるかも知れない。大体のケースでこれが起きないように露出を調整することはできるが、絶対起こらないわけではない。例えば、あるシーンで、ネオンサインがあり、他のエリアは暗いながらもうっすらと照らされているとしよう。この場合、チャネルの1つをクリップし、再現されたサインの色の中で色相シフトを起こしてしまうのは良くあることである。
2つめは、より深刻なのだが、デジタルカメラのガマットを制限するのは、イメージを記録するために選択されたカラースペースであるということである。これまでの分析で、センサーによってキャプチャーされたRGB信号について考察し、全ての実在のカメラのスペクトル反応に対応するプライマリーはスペクトル軌跡の外側 (つまりこれらはイマジナリー) にあることを確認してきた。しかしながら、カメラがこれらの「ロウ(raw)」の値を出力することは、異例のダウンストリーム・ポストプロセスを要求することになり、多くの場合非現実的である。
例えば、標準的なスチル写真用カメラは、sRGBカラースペースでイメージを生成する。この場合、カメラの負の(イマジナリーの)プライマリーからsRGBプライマリー (ITU-R BT.709と同じ) へ変換するためのマトリックスが、カメラの中で適用されている。このマトリックスプロセスは、許容範囲 (例えば8-bitイメージなら0から255) の外にある値(クリップされているはず)を結果としてはじき出し、そしてこのクリッピングがガマット制限の起因となっている。
このクリッピングを回避するため、多くのプロフェッショナルカメラ (時には民生品までも) では、むしろrawフォームでイメージを記録するか、あるいはワイドガマット・プライマリーを使用したイメージで記録するかができるようになっている。これらのイメージは、表示する前に色変換を行わなければ、(サチュレーションが低すぎる等) 違って見えてしまう。しかしカメラで「見る」よりも、実際には広いカラーレンジを保持しており、色補正において大きな柔軟性を提供することになる。また、付加的な色情報というのは、ワイドガマット・ディスプレイ (デジタルシネマ、フィルムアウトプット等) に出力する場合に有益である。
要約しよう。デジタルカメラのスペクトル反応に対応するプライマリーはスペクトル軌跡の外側にはあるが、制限されたダイナミックレンジや、カラースペースの出力のためのマトリックス処理が、カメラの有効ガマットに制限を与えている。今号の「カラーマガジン」が読者諸君にとって何らかの参考になれば幸いである。 |